生活保護

1.生活保護とは

生活に困っている人を援助する制度

生活保護とは、資産や能力などすべてを活用しても生活に困窮している人を対象に、必要な保護をおこなう制度です。健康で文化的な最低限度の生活を保障し、生活困窮者の自立支援を目的として、生活保護法に定められています。

生活保護を受ける条件

生活保護を受ける条件は、国が定める保護基準(最低生活費)に満たないことです。最低生活費とは、衣服代、食費、家賃、教育費など生活に必要な費用の合計金額で、住んでいる地域や世帯人数によって異なります。詳しくは「生活保護の金額」で後述します。

生活保護は世帯単位でおこなわれ、世帯全員の資産や能力を活用しても最低生活費に満たない場合に生活保護を受けることができます。また、親族などの扶養義務者から援助を受けられる場合は、その援助が生活保護制度より優先されます。

年金受給者も条件を満たせば保護を受けられます。また、外国籍を持つ人も、永住者や日本人の配偶者がいる場合は保護の対象となることがあります。

生活保護を受ける主な条件

資産に該当する土地や家屋などの不動産は、生活のために必要と認められれば引き続き保有できます。ただし、処分によって得られる金額が多い、未活用の土地がある、住宅ローンが残っているなどの場合は手放す必要があります。

自家用車は、原則として所有や運転が認められません。しかし、通院や子どもの送迎に欠かせない、公共交通機関が少ない地域に住んでいる、自営業に利用するなどの事情があれば継続して使用できる可能性があります。

生活保護の受給状況

厚生労働省の調査によると、生活保護を受けている人の数は201万1,281人となっています。世帯数では164万7,853世帯、その半数以上が65歳以上の高齢者世帯です(2024年4月時点)。

世帯累計別 生活保護受給者数の推移
厚生労働省|被保護者調査より作成

受給世帯数は過去10年間で160万前後と大きな変化はみられないものの、高齢者世帯の割合が増加しています。一方、母子世帯や障がい者・傷病者世帯はわずかに減少しています。

生活保護開始理由の内訳
厚生労働省|令和4年度被保護者調査より作成

生活保護を開始した理由の内訳では、「貯金等の減少・喪失(26.7%)」が最多となっており、「世帯主や世帯員の傷病(23.9%)」「その他の働き・老齢による収入の減少(9.2%)」と続きます。

2.生活保護の種類と金額

ここからは、生活保護で支給される費用にはどのような種類があるか、支給額がいくらになるか見ていきましょう。

保護の種類

生活保護には以下8つの種類があり、要保護者の必要に応じていずれかを支給、または併給した金額が生活保護費となります。

扶助の種類該当する費用内容
生活扶助生活費世帯人数に応じた食費や光熱費。国民の消費動向などに応じて改定される
住宅扶助家賃家賃、地代、修繕費など住宅にかかる費用
教育扶助教育費小学校・中学校に行くために必要な学用品費や給食費
医療扶助医療費保険適用内の診察代、手術代、薬代などのうち自己負担分
介護扶助介護費用居宅介護費、施設介護費、福祉用具費など介護を受けるための費用のうち自己負担分
出産扶助出産費用指定医療機関・助産所における出産にかかる費用
生業扶助就労に必要な費用高校進学に際してかかる教材費、学習支援費、通学交通費、入学準備金など就労のための技能習得費、就職支度費など
葬祭扶助葬祭費火葬式の最低限の費用など、葬祭にかかる費用

*生活保護受給者に直接支給するのではなく、医療機関や介護事業所などへ受給者に代わり支払われるため、基本的に受給者による支払いは発生しない

生活保護の金額

毎月支給される生活保護費は、世帯人数、年齢、地域の等級に応じて計算されます。国が定めた最低生活費から、世帯全員の収入(収入認定額)、年金などの手当や給付金を差し引いた不足分の金額が生活保護費として振り込まれます。

*働いて得た収入については、必要経費の実費のほか一部控除が適用となる

生活保護費のイメージ

住んでいる地域の等級は、人口や物価水準などにより1級から3級に分けられています。

お住まいの地域の等級はこちらを参照してください
>厚生労働省|級地区分

生活保護は、要保護者の状況に応じて支給される扶助が異なりますが、メインとなるのは生活扶助と住宅扶助です。

最低生活費

生活扶助は、以下の2つに分類されます。

  • 第1類:食費などの個人的費用
  • 第2類:水道光熱費などの世帯共通費用

第1類の基準額には、世帯人数に応じた逓減率(ていげんりつ:1人あたりの支給額を少しずつ減らす計算率)が適用されます。この額に第2類の基準額を足した数が、生活扶助基準額となります。

住宅扶助基準額は、住んでいる地域によって異なります。それぞれの地域は1〜3級の等級に分けられ、上限金額が定められているため、家賃を範囲内に収める必要があります。

これら生活扶助と住宅扶助に加えて、世帯状況に応じて以下のような扶助も受けられます。

  • 義務教育を受けている子どもがいる場合に加算される教育扶助
  • 介護が必要な家族がいる場合に加算される介護扶助

支給金額の例

生活保護で支給される金額は、世帯人数、地域、年齢、家庭状況によって異なります。以下ケース別に3つの例を挙げます。なお、特例加算や経過的加算を含まない金額のため、あくまで目安としてください。

東京都23区内在住の68歳Aさんの場合

  • アパートで一人暮らし
  • 年金6万5,000円/月
扶助の種類金額最低生活費合計
生活扶助第1類4万6,460円*1 × 1.0%*2 = 4万6,460円12万7,950円
生活扶助第2類2万7,790円*3
住宅扶助5万3,700円*4

*1…1級地-1(東京都23区)に住む65~69歳の第1類生活扶助基準額
*2…1人世帯の逓減率
*3…1級地-1における1人世帯の第2類生活扶助基準額
*4…1級地の住宅扶助基準額

Aさんの最低生活費は12万7,950円となり、この金額から年金6万5,000円を引いた6万2,950円が月の支給金額です。

埼玉県川越市在住の40歳Bさんの場合

  • 実家で76歳の父と2人暮らし
  • 就労による収入7万円/月
扶助の種類金額最低生活費合計
生活扶助第1類(4万3,640円 + 3万7,100円)*1 × 0.87%*2 = 7万244円15万3,304円
生活扶助第2類3万8,060円*3
住宅扶助4万5,000円*4

*1…2級地-1(埼玉県川越市)に住む20~40歳と75歳以上の第1類生活扶助基準額の合計
*2…2人世帯の逓減率
*3…2級地-1における2人世帯の第2類生活扶助基準額
*4…2級地の住宅扶助基準額

Bさんの最低生活費は15万3,304円となり、この金額から収入7万円を引いた8万3,304円が月の支給金額です。

三重県伊勢市在住の30歳Cさんの場合

  • アパートで29歳の妻と2歳の子ども1人と3人暮らし
  • 就労による収入10万円/月
扶助の種類金額最低生活費合計
生活扶助第1類(4万1,290円 + 4万1,290円 + 3万9,230円)*1 × 0.75%*2 = 9万1,358円18万7,178円
生活扶助第2類4万4,730円*3
住宅扶助4万900円*4
児童加算1万190円

*1…3級地-1(三重県伊勢市市)に住む20~40歳2人と0〜2歳1人の第1類生活扶助基準額の合計
*2…3人世帯の逓減率
*3…3級地-1における3人世帯の第2類生活扶助基準額
*4…3級地の住宅扶助基準額

Cさんの最低生活費は18万7,178円となり、この金額から収入10万円を引いた8万7,178円が月の支給金額です。

3.生活保護の申請から支給の流れ

生活保護の申請から支給までの流れ

自治体の福祉事務所に相談する

生活保護の申請をする前に、まずは住んでいる地域にある福祉事務所の生活保護担当に相談します。制度の説明を受け、ほかの手当や制度が活用できるか検討します。

生活保護を申請する

生活保護が必要であると判断されたら、申請をおこないます。申請の際、以下の書類を用意します。

  • 氏名・住所または居所が記載された本人確認書類
  • 申請書
  • 世帯の収入、資産の状況がわかる通帳などの資料

保護決定のための調査

生活保護の実施を判断するため、申請者には以下の調査がおこなわれます。

  • 生活状況を把握するための実地調査
  • 預貯金、保険、不動産などの資産調査
  • 扶養義務者による仕送りなどの調査
  • 年金などの社会保障給付、就労収入などの調査
  • 就労の可能性の調査

保護決定

申請から原則2週間以内に、結果が通知されます。

生活保護費の支給開始

生活保護の受給中は、収入状況を福祉事務所のケースワーカーに毎月申告し、年数回の訪問調査に対応する必要があります。

生活保護の支給日は自治体ごとに異なりますが、1日〜5日までのいずれか月初に支給されるところがほとんどです。支給日が休日や祝日に重なった場合は、その前日などに支給されます。

4.生活保護に関するよくある質問

Q.生活保護は毎月いくらもらえる?

A.生活保護費は、世帯人数と年齢、住んでいる地域、収入の有無などによって異なります。食費や光熱費などに対して支給される生活扶助と、家賃や住宅の補修などに対して支給される住宅扶助は、都市部ほど高くなります。生活扶助は、世帯人数が増えれば支給額も多くなります。

Q.生活保護はどんな人がもらえますか?

A.世帯全員の資産や能力を活用しても国が定める最低生活費に満たず、親族などからの援助を受けられない人が受給できます。

Q.生活保護を受けると医療費はどうなるの?

A.生活保護受給者は国民健康保険の被保険者から除外されているため、医療費は全額医療扶助で負担されます。医療機関などの窓口で受給者が支払う必要はありません。

Q.生活保護のデメリットは?

A.生活保護を受けると、生活上のさまざまな制限が発生する点がデメリットといえます。受給者は、資産に該当する自動車や不動産の購入ができないほか、新たな借入や生活保護費を借金の返済にあてることができません。また、住んでいる地域ごとに住宅扶助の上限が決まっているため、その範囲内で住居を探す必要があります。