賃貸借契約の種類

普通借地権

通常の借地契約は,契約期間が終了しても,契約期間終了時に建物が存在すると借地権者が更新を請求した場合や,借地権者が使用を継続した場合には,従前と同様の条件で契約は更新されたものとみなされてしまいます(借地借家法5条)。
このように,後に説明する定期借地権とは異なり,更新されることを前提とした権利が,普通借地権ということになります。
地主は,これに対して異議を述べることができます(同法5条)が,この異議が認められるのは,①地主及び借地権者が土地の使用を必要とする事情(自己使用の必要性の比較衡量),②借地に関する従前の経緯(権利金や保証金等の有無・多寡,当事者間の信頼関係を破壊するような事情の有無等),③土地の利用状況(建ぺい率,容積率,商業地域か否か,防火地域か否か等),④地主が土地明け渡しの条件として,又は土地明け渡しと引き換えに立退料の申し出をした場合におけるその申し出内容を考慮して,正当事由があると認められる場合でなければならないとされています(借地借家法6条)。
上記のうち,④立退料の申し出については,あくまでも①~③の補完要素であるため,立退料を支払うだけで正当事由ありと認められるものではなく,他の事情との相関関係によって決まることになります。

定期借地権

定期借地権とは,平成4年8月1日より施行された借地借家法で新たに創設された制度で,更新がなく,定められた契約期間で確定的に借地関係が終了するものを指します。
旧借地法の下では,定期借地権は無く,地主が借地権者に対して土地の明渡しを求めるためには正当事由が必要でした。その結果,地主が借地権設定を躊躇したり,設定時において高い権利金等の支払いが生じたりしていました。
そこで,借地借家法では,一定の範囲で更新のない借地権を認めることとして,土地を貸したり借りたりしやすくしました。

定期借地権には,以下のアからウまでの三種類があります。

ア 一般定期借地権
存続期間を50年以上と定めることを要件とする定期借地権のことを,「一般定期借地権といいます(借地借家法22条)。

イ 事業用借地権
事業目的で存続期間を10年から50年未満(平成20年1月1日以前は20年以下)とする定期借地権のことを「事業用借地権」(同法23条)といいます。

ウ 建物譲渡特約付借地権
借地権を設定した日から30年以上を経過した日に借地上の建物を借地人から地主に譲渡することを予め約束して借地契約をする定期借家権を「建物譲渡特約付借地権」(同法24条)といいます。

一時使用目的の借地権

臨時設備の設置,その他一時使用のために設定したことが明らかな一時使用目的の借地権(同法25条)には借地借家法の存続期間の規定が適用されません(借地借家法25条,借地法9条)。

2.地上権と賃借権の違い

同じ借地権であっても,建物所有を目的とする地上権は物権であり,譲渡が自由であるのに対し,賃借権は債権なので譲渡するには地主の同意が必要となります(民法612条)。
これが地上権と賃借権の違いですが,賃借権譲渡の際,地主の承諾が得られない場合には,借地借家法19条に基づき,地主の承諾に代わる裁判所の許可を得ることにより賃借権の譲渡も認められています。
したがって,財産上の価値においては,両者の間に大きな差はないと考えられています。

3.旧借地法下で成立した既存借地権と新法下で成立した借地権       の違い

旧借地法は、借地権者の立場を守ることに重点が置かれていました。

そのため、契約期間を定めていても、地主が正当事由をもって更新を拒絶しない限り、自動的に契約は更新されてしまいます。

新法である借地借家法において,借地権の存続期間は一律30年とされました。

ただし、地主・借地権者がこれより長い期間を定める場合は、その期間が存続期間となります。
また、契約を更新する場合の期間は、1回目の更新では20年、2回目以降の更新では10年とされました。こちらも、当事者間の合意があれば、この期間より長く設定できます。
なお、旧借地法下では堅固建物と非堅固建物で借地権の存続期間が異なっていましたが、借地借家法においてはその区別はなくなりました。

普通借家権

普通借家権は,以下で説明する⑵定期借家権,⑶終身借家権,⑷取壊し予定の建物の借家権以外の建物賃借権のことを指します。
建物賃貸借では,期間が満了しても,更新拒絶等の通知がなければ契約は終了せず(借地借家法26条1項),更新拒絶等の通知をしても,正当事由がなければ契約は更新して存続します(同法28条,正当事由ルール)。
特約によって正当事由ルールを配乗することは出来ません(同法30条)。
このように,普通借家権の場合には更新されるのが原則です。
また,平成11年の借地借家法改正において,出来るだけ賃貸借を継続させ,長期の契約を可能にするために,建物賃貸借に民法604条を適用しないものとされたため(借地借家法29条2項)建物賃貸借に長期についての制限はなく,民法604条1項の定めた上限である20年を超える期間を定めることも出来ます。
なお,普通借家権について1年未満の期間を定めたときは期間の定めのないものとみなされます(同法29条1項)。
なお,定期借家賃貸借であればこの短期に関する制限もなく(同法38条1項),どのように短い期間であっても定めることが可能です。

定期借家権

⑴で述べた通り,普通借家権の場合には,期間が満了しても更新拒絶等の通知がなければ契約は終了せず,更新拒絶等の通知をしても正当事由がなければ契約は更新して存続してしまいます(正当事由ルール)。
正当事由ルールは,かつて住宅の数がひっ迫していた時代における住宅政策の上に成立する仕組みであり,量的に十分な住宅供給がなされている現在の社会状況に照らせば借家人保護に偏りすぎており,良質な借地や借家の供給を制約していると考えられていました。
そこで,これを受けて,平成11年12月,借地借家法38条が改正され,契約更新がないとする条項(更新否定条項)の効力を認める新しい形態の建物賃貸借が創設されました。
これが,定期建物賃貸借(定期借家)です。
定期借家においては,更新の意思があるか否か,更新拒絶通知がなされたか否か,正当事由があるか否かを,いずれも問題にせず,期間が満了すれば確定的に終了する賃貸借です。
定期借家権を成立させるためには,更新否定条項が契約書において一義的に明示されていなければならないとされており,単に「定期借家制度に基づく」と契約書にあった事案で他の条項とのバランスから定期借家であることが否定された裁判例もあるので,契約時には弁護士のチェックを受けるなど,注意すること求められます。

終身借家権

高齢者の居住の安定確保に関する法律の第五章に終身建物賃貸借についての定めがあります。終身借家権とは,その名の通り,60歳以上の高齢者で,死ぬまで賃貸住宅に住み続けることができる借家権です。この終身建物賃貸借契約を締結することが出来る主体や方法は限定されています。具体的には,終身建物賃借人になることができるのは,①60歳以上の者(同居する人がいないか,又は同居者が配偶者若しくは60歳以上の親族である者)又はその高齢者と同居する配偶者で,自ら居住するために住宅を必要とする者です。終身建物賃貸人となることが出来るのは,終身賃貸事業者として都道府県知事の認可を受けた事業者(終身賃貸事業者)に限ります。そして,これらの者の間で,公正証書による等の書面によって契約するときに限って,「賃借人が死亡した時に終了する」と定めて建物賃貸借契約をすることができます。

取壊し予定の建物の借家権

借地借家法39条1項には,「法令又は契約により一定の期間を経過した後に建物を取り壊すべきことが明らかな場合において、建物の賃貸借をするときは、第三十条の規定にかかわらず、建物を取り壊すこととなる時に賃貸借が終了する旨を定めることができる。」と規定されています。
そして同条2項には,「前項の特約は、同項の建物を取り壊すべき事由を記載した書面によってしなければならない。」とあります。
この規定は定期借地権の導入に伴い、定期借地上の建物の賃貸借を,定期借地権が消滅して建物が取り壊されるときに終了させる場合等を想定して設けられました。

まとめ

以上見てきた通り,土地や建物の賃貸借関係にも様々なものがあります。
特殊な借地権や借家権を成立させるためには相応の要件がありますので,弁護士にご  相談頂くのが良いと思います。

2024年7月27日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : admin