契約不適合責任

1、契約不適合責任とは?

「契約不適合責任」とは、売買や請負などの契約に基づき引き渡された目的物につき、以下の3点のいずれかに関して契約内容との間に相違があった場合に、売主(施工業者)が買主(施主)に対して負担する法的責任をいいます。

① 目的物の種類
契約上の目的物と、実際に引き渡された目的物の品目が異なる場合、契約不適合責任が発生します。
(例)シューズクロークを設置すべき場所に、通常の靴箱が設置されていた

② 目的物の数量
契約上定められた目的物の数量に対して、実際に引き渡された数量が過剰または不足している場合、契約不適合責任が発生します。
(例)収納棚を3つ並べて設置すべき場所に、収納棚が2つしか設置されていなかった

③ 目的物の品質
契約上定められた目的物の品質に対して、実際に引き渡された目的物の品質が劣っている場合、契約不適合責任が発生します。
(例)無垢材を使用すべきリビングの床に、合板材が使用されていた

特に新築の注文住宅では、建物に欠陥や契約との相違が見つかり、契約不適合責任が問題となるケースが多いのが特徴です。

関連コラム

2、契約不適合責任と瑕疵担保責任の違いは?

2020年4月1日に改正民法が施行される以前は、「瑕疵担保責任」が契約不適合責任に近しいものとして存在していました。

改正前民法における瑕疵担保責任は、現行民法における契約不適合責任と類似し、売買等の目的物の欠陥・不備(=瑕疵)について、売主(施工業者)側の責任を認めるルールです。
それでは、瑕疵担保責任と契約不適合責任の違いは、どのような点にあるのでしょうか。

  1. (1)契約不適合責任では、契約責任説を明示的に採用改正前民法における瑕疵担保責任については、学説上「法定責任説」と「契約責任説」が対立していました。① 法定責任説
    特定物の売買においては、契約で定められた目的物を引き渡せば足りるという考え方(特定物ドグマ)を基本としつつ、売主・買主間の公平を図るため、売主に特別の責任を認めたのが「瑕疵担保責任」であるとする説です。
    法定責任説によると、瑕疵担保責任は、特定物に関する有償契約についてのみ適用されます。② 契約責任説
    実際に引き渡された目的物の種類・数量・品質が、契約内容と適合していない場合には「不完全履行」に当たるため、瑕疵担保責任は「債務不履行責任」の一種として捉えるべきであるとする説です。
    契約責任説によると、瑕疵担保責任は、目的物が特定物・不特定物のいずれである場合にも適用されます。

    改正前民法下では、法定責任説が一応の通説とされつつも学説上の批判が根強かったため、現行民法では、契約責任説を明示的に採用し、「契約不適合責任」として再構成されるに至ったのです。
  2. (2)買主側が利用できる救済手段が増えた改正前民法における瑕疵担保責任では、買主は売主に対して、「損害賠償請求」と「契約の解除」を行うことができるにとどまりました。

    これに対して、現行民法における契約不適合責任では、上記の2つに加えて、新たに「履行の追完請求」と「代金減額請求」が救済手段として認められています。

    各救済手段の詳細については、後で詳しく解説します。
  3. (3)「隠れた瑕疵」の要件の撤廃改正前民法下の瑕疵担保責任では、法定責任説の考え方をベースとして、瑕疵の存在が「隠れた」ものであること、すなわち契約締結時点において、買主が瑕疵の存在について善意無過失であったことを要求していました。

    これに対して、契約不適合責任の下で採用されている「契約責任説」によると、契約不適合責任が発生するかどうかは、専ら目的物が契約内容に適合しているかどうかによって判断されますので、買主の善意無過失は要件となりません。

    そのため、現行民法下の契約不適合責任では、瑕疵担保責任で要求されていた「隠れた瑕疵」の要件が撤廃されています。

3、契約不適合責任を追及できる期間に要注意

施主・買主が、種類または品質に関して、施工業者・売主の契約不適合責任を追及する場合、契約不適合責任の責任期間内に、施工業者・売主に対して不適合の存在を通知しなければなりません。
責任期間は原則として、「不適合を知った時から1年」です(民法第566条、第637条第1項)。

責任期間に関する民法の定めは「任意規定」であるため、特約による排除が認められます。

ただし、新築住宅については、「品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)」における特則が存在します。
すなわち、「構造耐力上主要な部分」および「雨水の浸入を防止する部分」については、「引き渡しから10年」の責任期間が強制的に適用されるので注意が必要です。

また、以下の場合についても、施工業者・売主側の免責が認められないので気を付けましょう。

① 不適合の存在を知りながら、施主(買主)に告げなかった場合
② 自らの行為により、権利に関する不適合が発生した場合
→いずれも契約不適合責任の免責が一切認められません(民法第572条、第559条)。

③ 売主が宅建業者の場合
→契約不適合責任の責任期間を、「引き渡しから2年以上」とする特約以外の、買主に不利となる民法566条に関する特約をすることはできません(宅地建物取引業法第40条第1項)。