「消防法」とは、建築物などについて防火・消防上必要な規制を定めた法律です。火災の予防・警戒・鎮圧や、災害等による傷病者の搬送を適切に行うことを目的としています。
消防法の適用対象|全ての建築物
消防法が適用されるのは、「防火対象物」および「消防対象物」です。
① 防火対象物(法2条2項)
山林・舟車・船渠もしくはふ頭に繋留された船舶・建築物その他の工作物、またはこれらに属する物をいいます。防火に関する規制が適用されます。
② 消防対象物(法2条3項)
→山林・舟車・船渠もしくはふ頭に繋留された船舶・建築物その他の工作物または物件をいいます。消火活動に関する規制が適用されます。消防対象物は、防火対象物を包含しています(全ての防火対象物は消防対象物にも該当します)。
建築物は、防火対象物と消防対象物の両方に該当します。したがって、全ての建築物には消防法の規制が適用されます。
消防法に関連する主な法令(建築基準法・火災予防条例など)
消防法に関連する主な法令としては、以下の例が挙げられます。
① 消防法施行令
消防法に関して、政府が制定した政令です。消防法の施行に関する細目的・技術的事項のうち、消防法によって政令に委任されたものを定めています。
② 消防法施行規則
消防法に関して、自治省(現・総務省)が制定した省令です。消防法の施行に関する細目的・技術的事項のうち、消防法によって総務省令に委任されたものを定めています。
③ 建築基準法
建築物の敷地・構造・設備・用途に関する最低基準を定めた法律です。防火に関して建築物が備えるべき設備や、防火地域・準防火地域に関する規制などを定めています。
④ 消防組織法
消防の業務に携わる国や自治体の機関について、組織に関する事項を定めた法律です。
⑤ 火災予防条例
各自治体が独自に定めた、火災予防に関する条例です。規定の内容は自治体ごとに異なります。
建築物を管理する企業が注意すべき主な消防法の規制
消防法では、建築物に関して多岐にわたる規制が設けられています。建築物を管理する企業は、特に以下の各規制にご留意ください。
① 防火管理者の設置等
② 危険物の貯蔵・取り扱い
③ 消防設備の整備・定期点検
防火管理者の設置等
一定規模以上の防火対象物の管理権原を有する者は、以下のとおり防火管理者などを設置する義務を負います。
① 防火管理者の設置(法8条)
以下のいずれかに該当する防火対象物の管理権原者は、防火管理者を設置しなければなりません。防火管理者は、研修課程の修了・実務経験・学識経験などの要件を満たしている必要があります。
・学校
・病院
・工場
・事業場
・興行場
・百貨店(延べ面積が1,000平方メートル以上の小売店舗を含む)
・複合用途防火対象物
・その他多数の者が出入し、勤務し、または居住する防火対象物で、令1条の2第3項で定めるもの
② 統括防火管理者の設置(法8条の2)
以下のいずれかに該当する防火対象物の管理権原者は、統括防火管理者を設置しなければなりません。統括防火管理者は、防火対象物の全体について、防火管理上必要な業務を統括します。
・高層建築物(=高さ31メートルを超える建築物)
・その他消防法施行令3条の3で定める防火対象物
③ 防火対象物点検資格者による点検・報告(法8条の2の2)
①に該当する防火対象物のうち、火災の予防上必要があるものとして令4条の2の2で定めるものについては、専門的知識を持つ防火対象物点検資格者に、防火管理に関する点検を行わせなければなりません。点検の結果は、消防長または消防署長に報告させる必要があります。ただし、対象となる防火対象物の管理を開始した時から3年が経過し、その間適切に防火管理が行われたものと認められれば、消防長または消防署長の認定によって点検・報告義務が免除されます(法8条の2の3)。
④ 自衛消防組織の設置(法8条の2の5)
①に該当する防火対象物のうち、多数の者が出入する大規模なものとして令4条の2の4で定めるものについては、自衛消防組織を設置しなければなりません。
危険物の貯蔵・取り扱い
指定数量以上の危険物は、貯蔵所以外の場所でこれを貯蔵し、または製造所・貯蔵所・取扱所以外の場所でこれを取り扱ってはなりません(法10条1項)。また、危険物の貯蔵または取り扱いは、危険物の規制に関する政令で規定される技術上の基準に従って行う必要があります(同条3項)。危険物に該当するものおよび対応する指定数量は、消防法別表第一および危険物の規制に関する政令に規定されています。
消防用設備等の整備・定期点検
一部の防火対象物については、消防用設備等(=消防の用に供する設備、消防用水および消火活動上必要な施設)を整備した上で、6か月ごとの「機器点検」と1年ごとの「総合点検」を行う必要があります。
消防用設備等を整備すべき防火対象物(建築物等)
消防用設備等を整備すべき防火対象物としては、以下の例が挙げられます(法17条1項、令6条・別表第一)。
・劇場、映画館、演芸場、観覧場
・公会堂、集会場
・キャバレー、カフェー、ナイトクラブその他これらに類するもの
・遊技場、ダンスホール
・性風俗関連特殊営業を営む店舗
・カラオケボックス
・待合、料理店
・飲食店
・百貨店、マーケットその他の物品販売業を営む店舗、展示場
・旅館、ホテル、宿泊所
・寄宿舎、下宿、共同住宅
・一定の要件を満たす病院、診療所、助産所
・一定の要件を満たす老人短期入所施設、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、老人短期入所事業を行う施設、認知症対応型老人共同生活援助事業を行う施設
・救護施設
・乳児院
・障害児入所施設
・一定の要件を満たす共同生活援助を行う施設
・老人デイサービスセンター、軽費老人ホーム、老人福祉センター、老人介護支援センター、有料老人ホーム、老人デイサービス事業を行う施設、小規模多機能型居宅介護事業を行う施設
・更生施設
・助産施設、保育所、幼保連携型認定こども園、児童養護施設、児童自立支援施設、児童家庭支援センター、一時預かり事業または家庭的保育事業を行う施設
・児童発達支援センター、放課後等デイサービスを行う施設
・身体障害者福祉センター、障害者支援施設、地域活動支援センター、または生活介護、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援もしくは共同生活援助を行う施設(短期入所等施設を除く)
・幼稚園、特別支援学校
・小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、高等専門学校、大学、専修学校、各種学校
・図書館、博物館、美術館
・公衆浴場
・車両の停車場、または船舶もしくは航空機の発着場(旅客の乗降または待合いの用に供する建築物に限る)
・神社、寺院、教会
・工場、作業場
・映画スタジオ、テレビスタジオ
・自動車車庫、駐車場
・飛行機または回転翼航空機の格納庫
・倉庫
・上記のいずれにも該当しない事業場
・複合用途防火対象物
・地下街
・建築物の地階で連続して地下道に面して設けられたものと当該地下道とを合わせたもの
・重要文化財、重要有形民俗文化財、史跡もしくは重要な文化財として指定され、または重要美術品として認定された建造物
・延長50メートル以上のアーケード
・市町村長の指定する山林
・総務省令で定める舟車
など
整備すべき消防用設備等
消防用設備等を整備すべき防火対象物においては、以下の消火設備・警報設備・避難設備を整備する必要があります(法17条1項、令7条)。
① 消火設備
水その他消火剤を使用して消火を行う機械器具または設備であって、次に掲げるもの
(a)消火器および次に掲げる簡易消火用具
・水バケツ
・水槽そう
・乾燥砂
・膨張ひる石又は膨張真珠岩
(b)屋内消火栓せん設備
(c)スプリンクラー設備
(d)水噴霧消火設備
(e)泡あわ消火設備
(f)不活性ガス消火設備
(g)ハロゲン化物消火設備
(h)粉末消火設備
(i)屋外消火栓せん設備
(j)動力消防ポンプ設備
② 警報設備
火災の発生を報知する機械器具または設備であって、次に掲げるもの
(a)自動火災報知設備
(b)ガス漏れ火災警報設備
(c)漏電火災警報器
(d)消防機関へ通報する火災報知設備
(e)警鐘、携帯用拡声器、手動式サイレンその他の非常警報器具および次に掲げる非常警報設備
・非常ベル
・自動式サイレン
・放送設備
③ 避難設備
火災が発生した場合において避難するために用いる機械器具または設備であって、次に掲げるもの
(a)すべり台、避難はしご、救助袋、緩降機、避難橋その他の避難器具
(b)誘導灯および誘導標識
ただし、上記の消防用設備等と同等以上の性能を有する特殊消防用設備等として、総務大臣の認定を受けたものを用いることも可能です(法17条3項)。
消防用設備等の定期点検
消防用設備等を整備すべき防火対象物については、小規模なものなど一部を除いて、所有者・管理者・占有者(=関係者)が有資格者に定期点検を行わせなければなりません(法17条の3の3、規則31条の6)。定期点検には、「機器点検」と「総合点検」の2種類があります。
① 機器点検(6か月ごと)
以下の事項について点検を行います。
(a)消防用設備等に附置される非常電源(自家発電設備に限る。)または動力消防ポンプの正常な作動
(b)消防用設備等の機器の適正な配置、損傷等の有無その他主として外観から判別できる事項
(c)消防用設備等の機能について、外観からまたは簡易な操作により判別できる事項
② 総合点検(1年ごと)
消防用設備等の全部もしくは一部を作動させ、または当該消防用設備等を使用することにより、総合的な機能を点検します。消防用設備等の点検結果は、消防長または消防署長に報告しなければなりません(法17条の3の3)。特定防火対象物については1年に1回、非特定防火対象物については3年に1回、消防長または消防署長に報告書を提出する必要があります(規則31条の6第3項)。
※特定防火対象物:現に存する百貨店、旅館、病院、地下街、複合用途防火対象物(令34条の4第1項で定めるものに限る)、その他多数の者が出入するものとして令34条の4第2項で定める防火対象物
※非特定防火対象物:特定防火対象物以外の防火対象物
消防法に違反した場合の行政処分・罰則
消防用設備等の整備や建築物の安全性などについて、消防法に違反する状態が生じている場合には、消防庁による行政指導(指導・勧告・助言・警告など)が行われることがあります。
また、火災等の危険性が高い状態が生じている場合や、建築物の管理者等が行政指導に従わない場合などには、法的拘束力のある行政処分(措置命令)が行われる可能性もあります。消防庁の措置命令に違反した場合、以下の罰則(刑事罰)の対象となり得るので注意が必要です。
建築物等に対する措置命令(使用禁止、停止、制限など)違反 | 3年以下の懲役または300万円以下の罰金(法39条の2の2) ※法人についても1億円以下の罰金(法45条1号) |
消防用設備等(または特殊消防用設備等)の設置・維持命令違反 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金(法41条1項5号) ※法人についても3000万円以下の罰金(法45条2号) |
防火対象物の点検・報告義務違反 | 30万円以下の罰金または拘留(法44条11号) ※法人についても30万円以下の罰金(法45条3号) |