古くからの市街地は道路が狭く、複雑に入り組んだ街となっています。土地区画整理事業とは、このような市街地の区画を整理し、道路を拡幅し街区(道路に囲まれた区域)をきれいに整備し、整然とした新たな市街地をつくる事業です。
土地区画整理を行うメリットとしては、区画も道路もきれいに整然となることで、土地の評価(地価)が上がることです。デメリットとしては、土地の評価が上がることで、固定資産税も上がることが予想されること、また、必ずしも同じ場所に換地されるとは限らないことがあげられます。
土地区画整理事業は、地権者(ちけんしゃ:土地所有者と借地権者[土地を借りている人])が組合(土地区画整理組合)をつくって行う場合が多く、他にも市区町村等が主体となって行う場合もあります。
この事業を主導する組織を「事業主体」と呼びますが、組合を設立するには、7人以上で定款および事業計画を定め、区画整理地区内の地権者それぞれの3分の2以上の同意を得て、組合設立の認可を受けます。組合設立が認可されると、反対した権利者もその意思にかかわらず、全員が組合員にならなければなりません。
土地区画整理事業を実施するにあたって、地権者は原則としてお金を出さず、代わりに自分の土地の一部を提供します。
また、農地や山林が広がる地域で、新たな市街地をつくるときも土地区画整理の手法が使われます(土地改良事業は、未整理の農地を農地のままの状態で区画整理する事業です)。
土地区画整理事業は、土地区画整理法に定める事業で、施行者・施工方法・費用の負担等について規定しています。
土地区画整理事業の流れ
(※C段階は仮換地指定後、区画や道路をこれから整備する段階で、D段階は区画が工事で概ね整いつつある段階)
①計画決定:土地区画整理事業を行うことを決定した段階で、原案・おおまかな方向性が決まります。
②事業決定:具体的に(着工・完成時期も含め)新しい区画や道路・公園の位置等を決定した段階で、土地区画整理組合施行による事業の場合は、事業決定の時期を組合の成立時期としていることが多いです。
③仮換地指定:新しく造る区画(=換地)の予定地を、工事の施工前に、仮に指定する手続きのことです。それまで所有・使用していた土地を従前地(じゅうぜんち)といい、移動する先を仮換地(かりかんち)といいます。仮換地指定が行われると、原則、従前地の使用は禁止され、仮換地を使用することとなります。
④換地処分:上記の手順で事業・工事が進められ、工事が完了し、区画・道路・公園等が整備されると、最後の換地処分(かんちしょぶん)という手続きに入り、この換地処分が済むと、土地区画整理事業は終了です。
土地区画整理に出てくる用語
・従前地(じゅうぜんち)と換地(かんち)
従前地は、土地区画整理事業実施前の未整理状態の土地です。換地は、従前地に代わるものとして、事業により新たにつくられる整然とした土地です。
・減歩(げんぶ)
従前地から少しずつ提供し合い、公園や道路用地を捻出するために土地を減らすことを減歩といいます。そのため、換地の面積は、従前地の面積より少なくなります。この減少率を減歩率といいます。
・清算金(せいさんきん)
換地の面積は少なくなっても、区画が整備されて土地の形状も良くなれば地価が上がるので、原則的には従前地と換地の価値は等しくなります。しかし、実際には、従前地と換地の価値は完全に同じにはならないので、清算金を授受します。
新しい土地(換地)の評価が、従前地より上がれば清算金という名目で徴収され、逆に、従前地より評価が下がった場合は清算金が交付されます。
・仮換地(かりかんち)
土地区画整理事業は、開始から終了までかなりの期間を要するので、その間は仮換地を指定して、それを使用することになります。通常は、仮換地がそのまま本換地となるので、仮換地上に建物を建築することができます。
(仮換地指定通知[仮換地指定証明書]の例)
(仮換地図[仮換地指定図]の例)
・保留地(ほりゅうち)
土地区画整理事業内の全部の土地を換地として割り当てずに、一部を保留地として残します。換地に割り当てることを保留するので、保留地といいます。減歩が必要なのは、道路などの公共用地が増えるだけでなく、保留地をつくるためです。
施行者は、保留地を売却することで事業費を賄い、地権者からは清算金以外のお金は取ることなく土地区画整理事業を行います。
・換地処分(かんちしょぶん)
区画整理事業が済んで、従前地の形はなくなって新しい換地が完成していても、登記上は従前地の状況のままです。これを新しい換地へ変えるための手続きを換地処分といいます。換地処分により、従前地に関する権利関係はそのまま換地に移ります。
区画整理事業地内の物件調査方法
土地区画整理事業が進行中の土地を売買するときは、注意して調査しなければなりません。土地区画整理事業が進むにつれて、従前地の形はなくなりますが、権利がなくなるわけではないので、従前地(土地)を売買することは可能です。従前地に対して仮換地が指定されるので、仮換地の状態(面積や形状など)に着目して売買取引します。換地処分による新たな換地の登記がなされるまでは、登記上の記載は従前地のままです。面積は減歩前の面積であり、仮換地の面積とは異なります。つまり、換地処分が終わるまでは、登記簿の記載を頼りにできないので、仮換地指定通知や仮換地図などにより、実際に使用できる仮換地の状況を確認します。
①売主(不動産所有者)への確認事項:事業主体(組合なのか市町村等なのか)を確認し、売主が持っている資料(仮換地指定通知や仮換地図)を確認します。また、権利証などで従前地の地番を確認したり、各資料や固定資産税の納税通知書などから仮換地先の区画番号を確認します。
②法務局での謄本取得:換地処分してはじめて換地後の不動産が登記されるため、それ以前の進捗段階においては、従前地の書類を取得します。そのためC段階では、売買対象敷地と法務局で取得する敷地や敷地の面積が異なります(同位置に換地される場合もあります)。
③事業主体先への確認事項:Aの計画決定段階では、通常の調査方法と同じです。今後の進捗予定及び都市計画法第53条・第54条の制限を確認します。土地区画整理事業区域内では「地階(地下)の無い2階建てまでで、木造・鉄骨造・コンクリートブロック造などの非堅固な建物」しか建築できません。「堅固な建物」とは、鉄骨鉄筋コンクリート・鉄筋コンクリートなどの建物のことです。
都市計画法第53条・54条
第53条 都市計画施設の区域又は市街地開発事業の施行区域内において建築物の建築をしようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない。
第54条 都道府県知事は、前条第1項の規定による許可の申請があった場合において、当該申請が次の各号のいずれかに該当するときにその許可をしなければならない。
3.当該建築物が次に掲げる要件に該当し、かつ、容易に移転し、又は除却することができるものであると認められること。
イ 階数が2以下で、かつ、地階を有しないこと
ロ 主要構造部(建築基準法第2条第5号に定める主要構造部をいう。)が木造、鉄骨造、コンクリートブロック造その他これらに類する構造であること。
Bの計画決定段階やC段階では、今後の進捗予定や土地区画整理法第76条の制限、今後の建築が可能になる時期などを確認します。B段階においては、減歩により登記簿上の面積よりも換地先の敷地面積が減少することがあります。それぞれ個別の指導が出ることが多いので必ず確認が必要です。
土地区画整理法第76条
施行地区内において、本事業の施行の障害となるおそれがある次の行為を行おうとする者は、国土交通大臣が施行する土地区画整理事業にあつては国土交通大臣の、その他の者が施行する土地区画整理事業にあつては都道府県知事(市の区域内において個人施行者、組合若しくは区画整理会社が施行し、又は市が第三条第四項の規定により施行する土地区画整理事業にあつては、当該市の長。以下この条において「都道府県知事等」という。)の許可を受けなければならない。
ア 土地の形質の変更
イ 建築物・工作物の新築等
ウ 政令で定める移動の容易でない物件の設置または堆積
D段階では、実際に換地後の区画が整備されていくに従い、用途地域や道路などが決定され、仮換地先の具体的な調査が可能となります。また、清算金の金額及び時期も確認できるようになります。個人情報保護により仲介業者による調査の限界がある場合には、売主より情報提供をお願いする必要があります。あとで清算金を払うことが多いので、売主・買主のどちらが負担するのかを明確にしておきます。
土地区画整理事業に関する資料 | |
区画整理概算資料 | 事業の概要(区域の総面積や減歩の平均等)を示す資料 |
(仮)換地の設計図(計画図・位置図等) | 区画整理の対象エリアにおいて、区画割・道路・公園等がどのように配置される予定であるかを示している図面 |
仮換地証明書 | 仮換地が指定され、「現在の土地に対応する新しい土地がどこ(街区番号)で、何㎡(仮換地面積)になるか」を示すもの |
重ね図 | 従前の土地と仮換地指定された土地(移動先)を一枚の図面に重ねて表示してある図面 |
保留地証明書 | 保留地の場所(街区番号)と面積(保留地面積)等を示した書類 |
組合施行の区画整理事業地内の土地(仮換地)を、組合員から購入した者は、土地取得とともに売主(組合員)の地位を引き継ぎます。
土地区画整理事業は、保留地の販売収入で事業費を賄いますが、地価が下がったり、保留地売却の収入が不足すると、新たな保留地をつくり出すために再減歩を行ったり、組合員から賦課金(ふかきん)を徴収してカバーするしか方策がありません。賦課金は場合によっては多額になることもあり、後々のトラブルの原因となります。そのため、賦課金の有無および金額に関する調査も必要です。
不動産売買において、不動産が土地区画整理法に該当した場合には、不動産の重要事項説明書の「土地区画整理法に基づく制限」の項目にチェックをつけて、それぞれの項目を記載し、制限内容を説明しなければなりません。
保留地の売買について
保留地の売買の場合、換地処分が終わるまでは、保留地の登記がないことに注意しなければなりません。換地処分によって表題登記および甲区に組合の名義で所有権保存登記を行います。そのあと、購入者への所有権移転登記や、住宅ローンを利用している場合は抵当権設定登記を行います。そのため、保留地を購入しても換地処分までの間は、登記ができないため対抗力を有していません。また、抵当権設定登記もできないので、特例で住宅ローンを利用します。
土地区画整理事業を施行すべき区域
土地区画整理事業を施行すべき区域とは、東京23区に多くみられ、都市計画決定されているが、実際には事業化される見込みが低い土地区画整理区域です。事業化の見込みが低いため、都市計画の前段階である地区計画への移行を実施または検討している自治体があります。事業化の予定はなくても、都市計画法第53条・54条の建築制限があり、次の内容を調査する必要があります。
- どのような建物が許可されるのか
- 特例許可はあるのか
- 事業化された際に整備したい道路予定線なるものが決められているか
事業化された際に整備したい道路予定線とは、区画整理によって拡幅予定される道路のことで、市街化予想線(世田谷区)・細街路予想線(杉並区)・街路予想線(練馬区)などと呼ばれます。事業の見込みはなくても、現時点で再建築する場合にこの拡幅道路ラインを守るように指導されるため注意が必要です。建築計画概要書などに予想線の拡幅ラインが記載されていることがあるので、近隣を含めて取得した方が良いでしょう。
土地区画整理事業は、土地区画整理法に具体的な内容が定められていますが、大枠としては都市計画法第12条に定める市街地開発事業のひとつです。他の市街地開発事業に比べて圧倒的に多くの実施例があります。